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赤外線イメージングとは?原理・種類・用途をわかりやすく解説

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赤外線イメージングは、可視光では捉えにくい「温度」「放射」「分子の化学情報」を画像として可視化する技術です。サーモグラフィによる温度分布の観察から、赤外分光を用いた化学成分のマッピングまで、用途は医療・材料・製造・バイオなど幅広く広がっています。

本記事では、赤外線で何が見えるのかという基礎から、代表的な方式・装置構成、分光イメージング手法、具体的な応用例、導入時の評価ポイント、そして今後の展望までを体系的に整理します。

赤外線イメージングの基礎

まずは赤外線イメージングが何をどのような原理で可視化しているのかを押さえることで、方式の違いや適切な用途選定がしやすくなります。

赤外線イメージングは大きく、熱が出す放射を捉える方法と、物質が赤外線をどのように吸収するかを測る方法に分かれます。どちらも「赤外線を検出して画像にする」という点は共通ですが、得られる意味は温度なのか、化学組成なのかで大きく変わります。

初心者がつまずきやすいのは、赤外の画像が必ずしも温度そのものではないことです。測っているのは基本的に放射や透過の強さで、そこから温度や成分を推定します。推定には放射率、反射、試料の厚みなどの前提が入り、前提を誤ると解釈がずれます。

赤外線イメージングを正しく使うコツは、見たい対象が「熱現象」なのか「化学情報」なのかを最初に分け、必要な波長帯と測定モードを決めることです。目的が曖昧なまま装置を選ぶと、分解能や感度以前に、原理的に見えないものを追いかけてしまいます。

赤外線で何が見えるのか(温度・放射・分子情報)

赤外線イメージングで見えるものは大きく3つに整理できます。1つ目は温度分布で、物体が熱により放射する赤外線の強さを画像化します。サーモグラフィが代表で、発熱体のホットスポットや熱の流れを直感的に捉えられます。

2つ目は放射そのものです。赤外線カメラが捉える信号は温度だけで決まらず、放射率の違い、周囲の物体の映り込み(反射)、大気の吸収などの影響を受けます。金属のように放射率が低い材料は、同じ温度でも暗く見えたり、周囲の反射が強く出たりするため、温度換算には条件設定と補正が欠かせません。

3つ目が分子情報です。中赤外を中心に、分子の振動に対応する吸収が現れるため、官能基や組成、結晶化や酸化などの状態変化をスペクトルとして捉えられます。これを画素ごとに取得して成分分布として可視化するのが赤外分光イメージングで、見た目が似た材料の識別や、劣化・汚染の原因推定に強みがあります。

熱赤外(サーモグラフィ)と赤外分光イメージングの違い

サーモグラフィは主に放射強度から温度分布を推定し、時間変化を含む熱挙動を素早く見たい用途に向きます。得られるデータは基本的に1画素あたり1つの値(温度または放射強度)で、解析は放射率設定、反射温度補正、領域の温度統計などが中心です。

一方、赤外分光イメージングは1画素あたりスペクトルを持ちます。つまり画像に加えて波数(波長)方向の情報があり、特定ピークの強度やスペクトル形状から化学成分や状態を推定します。その分、測定時間やデータ量は増えますが、温度では説明できない現象を「何が起きているか」に踏み込んで解釈できます。

違いを端的に言うと、サーモグラフィは熱の見える化、分光イメージングは化学の見える化です。現場では両者を混同して「温度が分かる装置で材料の違いが見たい」といった要望が出がちですが、目的を分けて選ぶことで、必要な波長帯や装置構成が自然に決まります。

赤外線イメージングの方式と装置構成

赤外線の波長帯、検出器、光学系、測定モードの組み合わせで、得意な対象や得られる情報、コストや運用条件が大きく変わります。

赤外線イメージングは、どの波長帯を使うかで見える情報と測りやすさが変わります。さらに検出器の方式で感度や速度が決まり、光学系と測定モードで分解能や試料制約が決まります。

装置選定で重要なのは、スペックの最大値ではなく、実サンプルで必要な再現性が出るかです。例えば高感度でも、試料が水分を多く含んで吸収が強いと、狙う波長では信号が飽和して情報が消えることがあります。

構成要素を「波長帯」「検出器」「モード」の3点に分けて整理すると、選定の漏れが減ります。用途が研究開発なのか検査なのかでも、求めるスループットや運用負荷が異なるため、導入前に測定フローまで含めた設計が必要です。

中赤外・近赤外・遠赤外(テラヘルツ)の使い分け

近赤外は透過性が比較的高く、厚みのある試料や深部の情報にアプローチしやすい領域です。ただし分子情報は主に倍音や結合音で、ピークが重なりやすく、単純なピーク同定よりも統計解析や検量線による推定が得意分野になります。

中赤外は分子振動の指紋領域を含み、官能基ごとの吸収がはっきり出やすいため、化学選択性が高いのが特徴です。材料の同定、混合比の変化、劣化生成物の検出などに強い一方、水の吸収が強く、生体や湿潤試料では測定モードや試料調製の工夫が必要になります。

遠赤外からテラヘルツは誘電応答や層構造、異物検知などで有効です。波長が長いほど空間分解能は不利になりやすい一方、非破壊で内部構造に迫れる場合があります。狙う現象のスケールと、水分の影響、必要な分解能をセットで考えると使い分けが整理できます。

検出器とカメラ(ボロメータ/冷却型/InGaAs など)

非冷却ボロメータは熱型検出器で、扱いやすさとコスト面が強みです。サーモグラフィ用途で広く使われ、現場での保守負担が小さい反面、一般に冷却型より感度や応答速度で制約が出やすく、微小な温度差や高速現象では限界が見えてきます。

冷却型は量子型検出器が多く、高感度・高速で、微弱な赤外信号や短い積算での測定に向きます。一方で冷却機構が必要になり、初期費用や運用コスト、ウォームアップ、校正管理などの負担が増えます。用途が研究で微小差を追うのか、検査で安定運用したいのかで最適解が変わります。

InGaAsなどの近赤外カメラは、近赤外域で高い実用性を持ちます。波長範囲に合う光源と組み合わせれば、高速ライン検査や工程内モニタリングにも展開しやすい一方、ノイズ特性やダーク補正、温度ドリフトなどの管理は品質に直結します。装置仕様だけでなく、現場の温度環境や校正頻度まで見込むことが重要です。

光学系と測定モード(透過・反射・ATR)

空間分解能は波長だけでなく、対物レンズの開口数や光学設計にも左右されます。顕微鏡系では、見たい構造サイズに対して分解能が足りるかに加え、SNRを確保できる光量か、視野と分解能のバランスが取れているかが実務上のポイントです。

透過は薄片やフィルムなど光が通る試料に向き、吸収スペクトルを素直に得やすいのが利点です。ただし厚みがあると吸収が飽和し、成分差が見えにくくなるため、試料調製が測定品質を支配します。

反射は不透明試料に適し、表面や近傍の情報が中心になります。ATRは高屈折率結晶に密着させ、表面の薄層情報に強いモードで、コーティングやバイオフィルムなどで有効です。一方で接触圧や密着ムラが結果に影響しやすく、基板や表面粗さの影響も受けるため、測定条件の標準化が欠かせません。

赤外分光イメージングの代表手法

分光イメージングは画像とスペクトルのデータ取得方式が複数あり、目的(速度・分解能・感度・化学選択性)に応じて手法選択が重要です。

分光イメージングでは、どのようにして「画素ごとのスペクトル」を集めるかが方式の違いになります。方式が変わると、測定時間、波数分解能、ノイズ、さらに解析の前提まで変わります。

実務では、欲しい結論に必要なスペクトル品質を最初に定義することが重要です。たとえば成分の有無判定が目的なら高い波数分解能は不要なことも多く、逆に近い成分を分けたいなら分解能とSNRが効いてきます。

また、分光イメージングはデータが大きくなりがちなので、測定だけでなくデータ管理と解析フローを含めて手法を選ぶと失敗しにくくなります。測定速度を上げても、解析が追いつかなければ運用が回りません。

FTIRイメージングの特徴

FTIRイメージングはフーリエ変換赤外分光を用い、干渉計で得たインターフェログラムをフーリエ変換してスペクトルを得ます。これを面検出器(FPA)と組み合わせることで、視野内の多数画素のスペクトルを一度に取得でき、化学マッピングを効率よく行えます。

波数分解能、測定速度、スペクトルSNRにはトレードオフがあります。分解能を上げるには光路差の走査を長くする必要があり測定が遅くなり、積算を増やせばSNRは上がる一方で時間が伸びます。目的に対して必要な分解能とSNRを決め、過剰品質にしないことが実装上のコツです。

代表的なフローは、背景測定、試料測定、スペクトル前処理、大気成分補正、ピークや帯域の強度計算、マップ化という流れです。ここで背景条件や大気補正が不十分だと、成分差ではなく測定条件差をマップしてしまうため、測定前に環境安定化と手順の固定が重要になります。

超解像中赤外分光イメージングの動向

中赤外は波長が長く、通常の光学顕微鏡では回折限界により微小構造の詳細がぼやけやすいという制約があります。これを超えるアプローチとして、近接場を利用する方法や、赤外吸収を別の信号に変換して検出するフォトサーマル系、AFM-IRなどが注目されています。

空間分解能が上がると、材料の微小ドメイン、界面の反応、ナノフィラー周りの分子配向など、平均化されて見えなかった化学的不均一が解析対象になります。つまり「材料の性質のばらつきの原因」を直接画像で追えるようになり、設計指針の精度が上がります。

一方で現状は装置難易度や測定スループット、試料要求、データ解釈の難しさが課題です。分解能だけに注目すると運用が破綻しやすいため、広視野のFTIRで全体像を掴み、必要部位のみ超解像で掘るなど、目的に応じた使い分けが現実的です。

赤外線イメージングの応用例

赤外線イメージングは熱の見える化と化学の見える化を両輪に、研究開発から品質管理まで幅広い現場で使われています。

応用を考えるときは、得たいアウトプットを「異常の有無を見つける」「原因物質を特定する」「分布を定量する」に分けると整理しやすくなります。サーモグラフィは異常検出と工程監視に強く、分光イメージングは原因推定と材料評価に強い傾向があります。

また、同じ対象でも観察条件で結論が変わる点が赤外の難しさです。例えば熱画像で見える差が放射率差なのか温度差なのか、分光マップで見える差が厚み差なのか組成差なのかを切り分ける設計が、応用の成否を分けます。

以下では、代表的な分野で何がどこまでできるのか、そしてつまずきやすい注意点を具体的に紹介します。

生物計測・医療(タンパク質・細胞・組織)

赤外分光イメージングでは、タンパク質の二次構造に関連する帯域や、脂質、核酸などの特徴的な吸収を手掛かりに、細胞や組織内の分子指標の分布をマッピングできます。染色に頼らずに特徴を抽出できるため、前処理の影響を減らした病理補助や研究用途で価値があります。

一方で生体試料は水の吸収が強く、中赤外では信号が大きく影響を受けます。そのため乾燥切片、固定条件の工夫、あるいはATRなどのモード選択で、観察したい情報が水に埋もれないように設計する必要があります。

医療応用で重要なのは、スペクトルの違いを病態に結び付ける検証です。見た目に差が出ても、測定厚みや前処理のばらつきで説明できてしまうことがあります。サンプル準備の標準化と、独立データでの再現性確認が、研究から実装への壁になります。

材料・製造(欠陥検査・接合・塗膜)

サーモグラフィは、欠陥や剥離が熱の流れを変えることを利用して検出します。受動的に温度分布を見るだけでなく、加熱や冷却を与えて応答を観察する能動熱(励起をかける熱検査)と組み合わせると、内部欠陥や接合不良などが見えやすくなります。

製造現場では、温度差が小さくても工程異常につながることがあるため、絶対温度よりもパターンの安定性や再現性が重要になります。放射率が変動する表面では、測定角度や表面状態の管理、基準点での補正が結果を左右します。

分光イメージングは、塗膜や樹脂の組成分布、混合不良、劣化や汚染の局在を可視化できます。外観検査で見逃す微小な組成ムラを直接示せる一方、厚み差の影響を受けるため、ピーク比や多変量解析を使って厚み要因を抑え、化学差だけを抽出する設計が有効です。

バイオフィルムの分子イメージング

バイオフィルムは多糖、タンパク質、核酸などが複雑に分布し、成熟や薬剤応答で組成が時間的・空間的に変化します。赤外分光イメージングを使うと、非染色でこれらの成分指標の分布を追跡でき、どこで何が増減したかを地図として示せます。

測定では試料の水分管理が特に重要です。湿潤状態のまま観察したい場合は、水の影響を見込んだ波数帯の選択や、ATRで表面近傍に限定して観察するなど、目的に合わせてモードを選びます。乾燥させる場合は、乾燥で構造や成分分布が変わり得るため、解釈上の注意が必要です。

解析面では、単一ピークだけで結論を出すより、複数帯域の組み合わせやクラスタリングで領域を分け、代表スペクトルで意味付けする流れが堅実です。バイオフィルムは不均一性が本質なので、平均スペクトルだけでは見えない局所差を、統計的に再現する設計が成果に直結します。

導入・評価のポイント

装置選定ではスペック表だけでなく、目的に対して必要十分な性能を定義し、データ解析まで含めて評価することが成功の近道です。

赤外線イメージングは「撮れた画像がきれい」でも、目的に必要な判断ができなければ導入成功とは言えません。導入時は、何を合否判定するのか、どの成分を識別するのかといった評価指標を先に決め、その指標が安定して出る条件を詰めるのが重要です。

評価はできる限り実サンプルで行い、ばらつき要因を洗い出します。温度、表面状態、試料厚み、測定者、日内変動など、現場で起きる変動を入れたうえで成立するかを見ることで、導入後の想定外を減らせます。

また分光イメージングでは解析が性能の一部です。測定条件を上げても解析が未整備だと、結局は目視評価に戻ってしまいます。解析手順の標準化と検証計画を、装置導入と同時に設計することが現実的です。

空間分解能・感度・測定時間の見方

空間分解能は回折限界だけでなく、ピクセルサイズ、光学系、SNRに依存します。ピクセルを細かくしても信号が不足するとノイズが増え、実質的には分解できません。分解能は「見たい最小構造が、十分なSNRで区別できるか」で判断するのが実務的です。

感度はサーモグラフィならNETDなどの指標で語られ、分光ではノイズフロアや検出限界として効いてきます。重要なのは数値の良さより、対象のコントラストがノイズに埋もれないことです。特に放射率変動や厚み変動が大きい対象では、装置ノイズより試料由来の変動が支配的になることがあります。

測定時間は画素数、積算回数、走査方式で概算できます。高解像度化や広視野化はデータ量を増やし、解析時間も増えます。導入評価では、必要な視野と解像度を満たしつつ、1サンプルあたり何分以内で回せるかをKPIにして、測定からレポートまでの時間を見積もると現場適合性が判断しやすくなります。

解析(スペクトル処理・ケモメトリクス)

スペクトル解析では前処理が結果を左右します。ベースライン補正、正規化、平滑化、大気成分補正などは、見た目を整えるためではなく、不要な変動要因を取り除き、比較可能な状態にするために行います。前処理の選び方を誤ると、差を消したり、逆に人工的な差を作ったりします。

次にピーク解析で、特定帯域の強度やピーク比をマップ化して解釈します。ただし厚みや散乱の影響がある試料では、単純なピーク強度が組成の代わりにならないことがあります。その場合は、複数帯域の組み合わせや、物理的な背景を踏まえた指標設計が必要です。

ケモメトリクスではPCAでばらつきの要因を俯瞰し、クラスタリングで領域分けをし、PLSなどで定量モデルを作る流れがよく使われます。ここで重要なのは学習データ設計と検証で、条件の偏りや過学習を避けるために、日やロットを跨いだデータで評価し、再現性を確かめます。解析モデルは一度作って終わりではなく、運用条件の変化に合わせて更新する仕組みまで含めて設計すると安定します。

今後の展望(高感度・超解像・単一分子観測)

検出器・光源・計算手法の進展により、より微小・高速・低濃度の現象を赤外で捉える方向へ発展が続いています。

今後は高感度化により、これまで積算が必要だった微弱信号を短時間で取得できる方向に進みます。これは研究用途だけでなく、工程内での分光イメージングや、現場での迅速な原因解析の実用性を押し上げます。

超解像の流れは、材料の界面や微小欠陥など、性能を支配する局所領域を赤外の化学情報で直接評価することを可能にします。一方で、分解能が上がるほど測定視野は狭くなりやすいため、広視野と高分解能をどう組み合わせるかが運用設計のテーマになります。

単一分子観測のような極限的な感度領域は、光源やプローブ、計算処理と一体で進展します。実務レベルでは、物理限界に挑む技術が、結果としてノイズ低減や小型化、解析の自動化として波及し、より多くの現場で赤外線イメージングが使いやすくなることが期待されます。

まとめ

最後に、赤外線イメージングを理解・導入するうえで押さえるべきポイントを簡潔に整理します。

赤外線イメージングで見えるものは、温度分布だけでなく、放射条件の違い、そして分子の化学情報です。何を見たいのかを最初に切り分けることが、方式選定の出発点になります。

波長帯、検出器、測定モードの組み合わせで、得意な対象と制約が決まります。スペック比較よりも、実サンプルで放射率や水分、厚みなどの影響を含めて評価し、必要十分な性能を定義することが重要です。

分光イメージングでは解析が成果を左右します。前処理とケモメトリクスを含めた再現性設計を行い、測定から判断までの運用フローを作ることで、研究でも現場でも赤外線イメージングの価値を最大化できます。