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光学系における数値開口(NA)とは?基本から学ぶ重要性

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光学系の性能は、光をどの程度効率的に集められるかによって大きく左右されます。例えばレンズやファイバーなど、光を介して像を結ぶ機器では、集めた光の量や結像の鮮明さが品質を左右する重要な要素です。こうした要素を定量的に示す指標が数値開口(NA)であり、解像度や明るさ、焦点深度などに大きな影響を与えます。

NAは顕微鏡やカメラのレンズ、さらに光ファイバーなど広範囲で使われる概念です。光を透過させる材料の屈折率や光の進入角度などによって数値が変化し、その大きさは観察・撮影の精度にダイレクトに関わってきます。逆に言えば、NAの特性をしっかりと理解しておけば、より高い解像度を実現するための設計や機器選定が行えるようになります。

本記事では、NAの定義や公式をはじめ、レンズ設計や光ファイバーへの応用例、実際にどのような影響を生むのかを体系的に解説していきます。初心者にも分かりやすい言葉でまとめつつ、専門的な視点もしっかりと盛り込んでいるので、光学系の基本から応用まで幅広く理解を深めていただけるでしょう。

開口数(NA)の定義と公式

まずはNAの基本的な定義や公式を理解し、光学系がどのように光を捉えるかを押さえましょう。

光学系におけるNAは、レンズが捉えることのできる光の角度領域を示す指標です。一般的に、空気中においては最大で1程度の値が得られます。大きいNAを持つ光学系は光を多く取り込み、より明るく高解像な画像を得ることが可能になります。逆にNAが小さい光学系は明るさや解像度に制約が生じるものの、被写界深度が深いといった利点を持つことがあります。

NA = n × sin(θ) の意味

NAの代表的な定義式は「NA = n × sin(θ)」で表されます。ここでnは使用する媒体、たとえば空気やガラスなどの屈折率を指し、θは光が入射する最大半角です。これはレンズがどれだけ大きな角度の光を受け止められるかを定量化したもので、角度が大きいほどレンズに入射する光の量が増加し、結果として解像度や明るさの向上につながります。

光学材料の屈折率との関連

同じレンズ形状でも、使用する媒体の屈折率nによってNAは変化します。空気中ではnが約1なのに対し、水やガラスなどでは1以上の屈折率を持ちます。そのため、顕微鏡の対物レンズなどでは、オイル浸透型のように屈折率の高い媒体を用いてNAを大きくし、より高い解像度を得る手法が一般的に用いられています。

NAの計算とレンズパラメータ

レンズや光学部品の設計・選定に密接に関わる、NAの計算と関連するパラメータを見ていきます。

レンズを用いた光学系では、焦点距離やレンズ径といった物理的なパラメータがNAに深く関わっています。レンズ径が大きく、焦点距離が短いシステムほど相対的に大きなNAを実現しやすい傾向があります。一方、拡大率や構造設計との兼ね合いもあるため、どのパラメータを優先するかによって機器の性能や用途が大きく変化します。

レンズ径と焦点距離の関係

レンズ径と焦点距離は、光学系の収束角度を決定づける重要な要素です。たとえば、同じ焦点距離でも大口径のレンズを使えば、レンズに入る光の角度が広がり、NAが大きくなります。逆に、口径が小さいレンズは光を捉える角度が小さくなるため、NAの値も小さくなる傾向があります。

F値との比較と違い

カメラ撮影などで用いられるF値は、焦点距離を有効開口径で割って定義されるため、NAとは別の尺度ですが互いに関連があります。F値が小さいほど開口は大きく、より多くの光を取り込めるという意味では、大きなNAをもつ光学系と似た特性を示します。ただし、F値は撮影系全体の明るさや露出時間との関係で使われるケースが多く、NAは解像度や被写界深度など光学の空間分解能を議論する際にフォーカスされる点で違いがあります。

NAが光学系に与える影響

NAの大きさは、解像度から被写界深度、光学系の明るさまで多方面に影響してきます。

NAによる影響は、特に高精度な観察や撮影で大きく表れます。顕微鏡では回折限界に近づくほど微細な構造の観察が求められ、NAが解像度を規定する要因の一つとなります。また、光学系の明るさや被写界深度とのバランスを考える際にも、NAを意識した設計が重要です。

解像度とエアリーディスクの関係

エアリーディスクとは、理想的なレンズであっても光の回折によって像が一点ではなく円盤状に広がる現象のことを指します。NAが大きいほどエアリーディスクのサイズは小さくなり、高解像度を得るうえで有利になります。顕微鏡や望遠鏡の分野では、目指す解像度に対応したNAを確保できるかが、装置の性能を大きく左右するポイントです。

被写界深度と明るさ

大きなNAを持つ光学系は、ピントの合う範囲が浅くなる反面、光を多く取り込めるので明るい像が得られます。これは顕微鏡観察や高精細な撮影において、微細な構造をしっかり確認するのに有利に働きます。ただし被写界深度が浅い環境では、観察対象物の焦点合わせにより一層の注意を払う必要があります。

光ファイバーにおけるNAの役割

通信やセンシングなど多くの応用がある光ファイバーにも、NAの概念が重要になります。

光ファイバーは細いコアの中を光が伝搬する構造を持ち、その際コアとクラッドの屈折率差がファイバーのNAを決定します。大きなNAを持つファイバーは広い角度から光を取り込むことができ、複数のモードが存在しやすいという特徴があります。これに対してNAの小さなファイバーは、より制限された光の入射角度を持ち、単一モードでの伝送が可能となるなど、それぞれの特性により用途が分かれています。

シングルモードとマルチモードの違い

シングルモードファイバーはコア径が小さいため、NAも比較的小さくなる傾向があります。その結果、光の伝搬モードが単一になり、長距離通信でも損失が少なく高品質の信号を伝送できます。一方、マルチモードファイバーはNAが大きく、複数の光路で信号をやり取りできる利点があるものの、モード間の遅延差が大きくなるため長距離では信号の品質が劣化しやすいです。

NAの応用例

NAの概念は顕微鏡や各種検査装置、記録媒体などさまざまな分野で活かされています。

近年では、高NAの光学系を用いることで微細構造の高度な観察や高密度な光ディスクの開発が進められています。顕微鏡対物レンズでは水浸やオイル浸を使い、高屈折率媒体によってNAを高めることで、生体組織の詳細な構造を捉える技術が一般的になっています。検査装置やデータストレージの分野でも、高NAレンズを採用することで解像度を高め、より多くの情報を正確に取得・記録できるようになっています。

顕微鏡・光学検査・データストレージへの活用

顕微鏡では、NAを高めることで微細な細胞内構造まで観察でき、研究や医療の精密診断に大きく役立ちます。光学検査装置では、薄いワークや微小なチップを検査する際の解像度向上にNAを利用しています。データストレージでは、より小さなスポットでレーザーを集光するために高NAが求められ、高密度な情報記録への道を切り開いてきました。

まとめ

最後に、NAにまつわる主要なポイントを整理し、その活用価値を振り返ります。

NAは、光学系が結像にどの程度の光を取り込めるかを示す重要なパラメータです。大きなNAを持つレンズやファイバーは解像度が高く明るい反面、被写界深度が浅くなるなどの制約があります。用途に応じて適切なNAを選定することが、効率的かつ高精度な光学系の設計や運用につながります。